ドロロンえん魔くん


1973年に放送されていた「ドロロンえん魔くん」です。

もう随分前から「一度腰を据えて見なければ」と思い続けていたアニメで、この度やっと全話通して見ることができました。
最初にこのアニメの存在を知ったのは小学校5~6年の頃。当時、街の市民館や公民館のようなところで古いアニメの映画を上映するというイベントがたまに開催されていました。私が最後にそういうイベントが開催されているのを知ったのは2000年代初頭くらいで、どこにいても配信で簡単にいろんな映画が見られるようになった今となってはきっとありえないイベントだと思います。
そういうイベントが開催されると、小学校や中学校でその無料チケットや割引券が配られることがありました。それで、ある上映会の時のアニメの一本がこの「ドロロンえん魔くん」だったのです。見には行ってませんが、そのチケットに載っていた「ドロロンえん魔くん」というタイトルと、えん魔くんの絵柄になぜかとても心惹かれました。私が小5~小6の頃といえば、89年~90年頃。きっと、その頃のマンガやアニメにはない雰囲気と、インパクトのあるタイトル・絵柄が新鮮に感じたんだと思います。
えん魔くんが映画化したことはなかったようなので、その上映会で放送されたのはおそらくテレビで放送された中の一話だったんだと思いますが、「へぇ~、昔はこんなアニメがあったのか・・」と漠然と思いつつも忘れられませんでした。

そして、それからしばらく経って2回目の出会いは中一の頃にあった再放送でした。リメイクされる訳でもなく、永井豪ブームが訪れた訳でもないのに、唐突に始まった再放送。子供の頃から昔のアニメの再放送が大好きで、あれば必ず見ていた私ですが、「えん魔くん」はなかなか集中して見ることができませんでした。というのも、確か夕方の4時~4時半くらいに放送されていて、なかなかその時間帯に家に帰ることができなかったからだと思います。録画タイマーをセットするのも家族に知られると思うとハードルが高くて・・。毎日急いで帰って、間に合えばラッキーという感じだったと思います。当時同じクラスで一緒に家に帰っていた友人も「えん魔くん」を見ていて、OPの♪そ~こ~で えん魔くん そ~こ~で えん魔くん♪のところがイイ!と言って、よく真似して歌っていたのを思い出します。歌い方がまた似てたんですよね。未だに思い出してちょっと笑ってしまいます。

3回目の出会いは高校2年か3年の時。当時は60年代~80年代の古いマンガが次々と文庫化されていた時期で、私も「サイボーグ009」とか「ハーロック」とか「ブラックジャック」などを購入して読んでいました。そんな時出会ったのが原作版「ドロロンえん魔くん」。懐かしいな~と思って購入して読んでみたらアニメの雰囲気とは全然違って、全編ただのエロギャグ漫画(笑)。最初からそのことを知っていたら別に何とも思わなかったと思いますが、真面目な内容で放送されていたアニメ版を先に見ていて、あの感じを期待していたのでめちゃくちゃショックでした(笑)。本はその後売りに行きました(^^;)

接触すること3回。そんな思い出深い「えん魔くん」ですが、その後は昔よくあっていた「懐かしのアニメスペシャル」みたいな特番で70年代のアニメのひとつとしてチョロっと紹介されていたのを見た程度で、肝心の本編はずっと見ることができませんでした。昭和アニメ全話レンタルビデオブーム(・・ブームだったかはわからないけど、90年代後半~2000年代前半はテレビシリーズ全話ビデオ化する作品が多かったの頃もえん魔くんのビデオは置いてなかったし、スカパーでも私が見ていた時期に放送されたことがなく、長自分のなかでは「幻のアニメ」となっていましたが、やっとチャンスが訪れて見ることができたというわけです。
前置きが長くなりましたが、ここからは定番の感想を語っていきたいと思います。

★良かったところ★

タイトルがイイ
「ドロロンえん魔くん」ってイイタイトルですよね。その響きからロゴの形まで全部好きです。「魔」の上の部分がシャポー爺になってるところとか「まだれ」の部分がクルクル巻いてるところとか、心惹かれる部分がたくさんあります。タイトルに「くん」が付いてるのもなんか可愛いしこれだけタイトルに惹かれるのも他のアニメで言えば「花の子ルンルン」くらいです。あれも、響きからロゴから何から何まで全て気に入っています。

キャラデザがイイ
えん魔くんのキャラは、全体的に「ゲゲゲの鬼太郎」と「怪物くん」を足して2で割ったような感じで、
えん魔くん→鬼太郎+怪物くん(+兜甲児成分もあり)、シャポー爺→目玉の親父、雪子姫→猫娘+怪子ちゃん、カパエル→怪物くんの3匹の下僕達、ダラキュラ→ねずみ男
という感じで、まぁ細かい違いはあるけど大体そんな感じのイメージでした。で、そのキャラ自体もいいのですが、それ以上にデザインがめちゃくちゃ気に入っています。
特に、えん魔くんのデザイン、これはもう本当に逸品だと思っています。今見ても全く古くなく、むしろオシャレ。マスコットにしてハロウィンの時に飾りたい!同じ永井豪作品で言えば「魔女っ子チックル」とかもそうだけど、「魔」の部分が強調されていて悪魔みたいなちょっとキツめな怖い顔。特にえん魔くんはキバが生えてるところが魔物感をアップさせていてイイと思います。猫系の動物のイメージで、えん魔くんの見た目が好きな人はきっと猫好きで、ハロウィンのインテリアとかも好きなはず(たぶん)。あと、えん魔くんといえば、なぜか赤いワンピース。普通なら半ズボン姿にしそうなところを、あえてのミニスカート。しかも、アクションシーンでは毎回真っ白なパンテーをちらつかせていました。これが昔からすごく不思議で、いくら昭和でも男の子キャラでパンチラなんて、他ではなかったと思います。半ズボンでなければあのスカートの下に黒か赤のタイツを履かせそうな気がするんですけどね。それでいえば、雪子姫なんてあのミニ丈の着物の下はノーパンノーブラ。それも後ろ姿の時に着物がめくれて尻チラする場面が何度かあり、衝撃を受けた方も多いのではと思います。いくら昭和の時代のアニメとはいえ、ヒロインのノーパンノーブラ設定はちょっとヤバいだろう。それなら主役のえん魔くんはパンチラにしよう、これで男女平等だよ、ってことにしとくか~~と、中和するためにスカート姿にしたんだったりして・・・??そんな訳はないか・・。
とはいえ、えん魔くんのあの衣装も幼くて可愛らし感じを強調していてとてもいいと思います。リアルな体型だと卑猥になりそうなところを、えん魔くんは幼児体型なので全然いやらしくないし、赤いブーツを履いてるのも、幼児が長靴を履いてるみたいで可愛いと思います
そして、いつも被っている帽子はお目付け役のシャポー爺。帽子が意思をもったキャラクターで喋るのも今となっては全然珍しくないけど、その元祖なのではないでしょうかおまけに、口の部分が入れ歯みたいにカチカチしていて上と下が繋がっていないのもまたセンセーショナル。話が前後するけど、雪子姫のミニ振袖(ノーパンノーブラ)も、全てがハイセンスすぎる。これの影響を受けたと思われる「地獄先生ぬ~べ~」のゆきめも同じ衣装だったし、「えん魔くん」も未だにスピンオフ作品が作られたりしているのもわかる気がします。

主題歌がイイ
昔、主題歌レビューの所でも語ったのですが、私はこのOPがめちゃくちゃ好きです。前奏もカッコいいんですよね。一度聴いたら忘れられないインパクトのある歌詞もイイ。OPもEDも、作詞はこれを歌っている中山千夏さんがされているそうで、当たり前だけどまだアニメが始まる前に作られたはずなのにこんなに番組ピッタリ、イメージ通りの歌詞を考えられるなんて本当にスゴイ!!
EDは、初めて見た時は人形が出てくるシーンが怖いと思ったけど、今見ると自転車のシーンが怖いです。ずっと三輪車と思い続けてたけど、今になって補助輪付きの自転車だったということに気づきました。どんだけ小さな自転車だよ?2~3歳向けくらい??ハンドルの形と丸いペダルの形も古臭くてなんか不気味な感じがします。あと、昔の三輪車とか子供向け自転車ってハンドルの端っこに吹き流しみたいなビニール製のビラビラの飾りが付いていたイメージだけど、あれが付いてないやつもあったんだな~と、そんなことも思い出しました。

高度経済成長期度が高くてイイ
実際の高度経済成長期といえば多分1960~70年くらいまでの間だと思いますが、70年代半ばくらいまでのアニメはあの独特な雰囲気をずっと引き摺っていたと思います。えん魔くんに出てくる妖怪達が人間に絡んでくる理由はそれぞれ違っていて色々あるのですが、中でも、昔は森やきれいな川がたくさんあって人間と妖怪が共存していたのに、公害のせいで居場所がなくなってしまって人間を恨んでいる、というパターンが多かったと思います。えん魔くん達が住んでいるあたりの地域の空気や川の水等はみんな汚れているという設定で、背景はかなりドス黒くとても不気味です。ツトム君が学校にいる時間なんて、当然日中のはずなのに画面はずっと夜みたいな感じで、それがまたホラーっぽい雰囲気を醸し出していました。でも、後半になるにつれてえん魔くん達のパトロールの甲斐があったのか、風景も徐々に明るくキレイな色になっていったと思います。
70年代半ば以降になるとアニメでのそういう社会派な設定やエピソードは減っていき、80年代以降はほぼ語られることはなくなった気がします。緑がなくなってきているとか、北極の氷が溶けているとか、そういう話題が出てくることはたまにあったけど。80年代以降の方が自然はなくなっていってると思うのに、あえて話題にしなくなったということは、「ちゃんと対策を取るようになった」ということが一般的になったからでしょうか。

全体に漂う不気味ムードがイイ
上の続きですが、このアニメに限らず70年代のアニメは全体的に不気味な雰囲気が漂っていました。色使いとか、透明感のないベタっとした絵の具感溢れる作画がその雰囲気をアップさせてるんだと思います。あと、えん魔くんに関してはイントロからサブタイトルが出るまでの、その回登場する妖怪が人間に襲い掛かっているシーンが一番の恐さ・不気味さのピークですね。タイトルコールも怖い!でも、えん魔くんとその妖怪が面識があるということがわかるシーンが出ると一気に怖さがなくなるのが面白いところ。中には敵対してるのにちゃんと「えん魔くん」と呼んでくれる妖怪もいますからね。


★気になったところ★

敵の組織が中途半端
それまで登場した妖怪たちは、それぞれ様々な理由があって地獄界を抜け出して人間達に絡んだり悪さしたりしていたのに、最終回だけ「大決戦」みたいな感じで、妖怪達が集団でえん魔くんを攻撃してきたのが違和感がありました。最初から「人間と、人間界を守ろうとするえん魔くんを倒す会」みたいな組織があって、その中から毎回一人づつ刺客としてえん魔くん達の前に現れていたな、ラストは大ボスと幹部達の最終決戦いう感じで良かったと思うんですが、最終回に出てきた奴らはそれまで何の出番もなく、突然登場した謎の集団で「お前ら誰だよ」状態でした。逆に、最初からこういう敵組織を登場させていたら、もっと深みが出て面白かったかも、とも思いました。
えん魔くんと敵対しつつも、実はえん魔くんのことが好きだったという幼馴染妖怪まで登場して、これもかなり唐突で見ている方はポカーンとしてしまったけど、もっと前から出していれば、面白かったのかも・・。
あと、最終回といえば、瀕死のえん魔くんとそれを見守る雪子姫の「雪子姫・・」「雪ちゃんでいいわ」という会話があったけど、スタッフはきっとこのやり取りを絶対にどこかで入れたかったんだろうな、というのが伝わってきました(笑)。いつもの「雪ちゃん!」「アタシは雪子姫!」というやりとりも、きっと子供の頃に見たら憧れたんだろうけど、この年で見ると色々恥ずかしくて・・(笑)。

ツトム君との友情が中途半端
くんとヒロシくんのような関係を想像していたら、友達になったとはいえそこまで深い友情で結ばれている感じもなく、ツトム君は毎回ドン引き状態。とにかく全話通して「とばっちり」だったな~という印象です(^^;) ここはもっと友情を感じる感動エピソードが一話くらい欲しかったところ。

あとは、気になったというか不思議に思ったことで、えん魔くんが閻魔大王からプレゼントされた「ドロロン号」と「地獄別荘」ですが、せっかく新メカとそれらしい基地を手に入れたにも関わらず、これが 出てきてから数話後には最終回を迎えてしまいます 。 普通、こういうパワーアップアイテムや「テコ入れ」は番組中盤で出てくるものなのに、出てきてすぐに終わってしまったということは、急に打ち切りだったのでしょうか?? 特に別荘の方はもっと早くに出てきていてほしかったところです。それまではずっとツトム君の学校の敷地にあるボロい倉庫(?)を基地みたいにしていましたからね。「怪物くん」みたいにもっと豪華なお屋敷があればいいのに、と思いながら見ていました。

ここからは良かったと思ったエピソードですが

「妖怪あすなろ小僧
人間の友達が欲しくて人間界にやってきて、ツトム君達の学校に転校してきたあすなろ小僧の話。
「あすなろ小僧」は不気味で不快度MAXだったものの、最終的にツトム君達から友達として認められ、「みんなを怖がらせたのに人間と分かり合うことができた」というほっこりエピソード。あすなろ小僧の得体の知れない不気味さが今見てもゾッとしてホラーだったところが良かったのと、ラストが思いがけずハッピーエンドだったのが良かった。

「妖怪イヨマントの復讐」
人間の女性を愛してしまったイヨマント。こんなに尽くしたのに、ラストで正体がバレると女性の態度が一変し「化け物」呼ばわりされてしまうという報われなかった話。悲しむイヨマントに「あまりにも可哀想だ」「お前の気持ちはおいらが誰よりもわかってるぞ」と叫ぶえん魔くんのセリフに感動。
「妖怪人間ベム」がこういう結末を迎えるエピソードが多かった気がします。でも私が想像していたオチとはちょっと違っていて、私はてっきり女性には元々恋人がいて、車に跳ねられて入院している時にその恋人がお見舞いにやってきて、イヨマントがそれを目撃してしまう・・という感じになるのかと思っていました。イヨマントが好きになってしまった女性は、イヨマントの変身した姿(クマの毛皮の敷物(?))を「ベアー」と呼び、まるでペットのように扱って、ドライブの時もシートに乗せて出掛けていましたが、その行動が最大の謎と違和感でした。どうせなら可愛いぬいぐるみの姿か、子犬の姿になるとかにした方が説得力があったのに・・。イヨマントと女性の出会いも全く描かれておらず、なぜそんなにクマの敷物を可愛がるのか??いろいろと不思議なところでした。

「妖怪父ちゃん」
息子を亡くした妖怪オロロンが、父親のいない母子の家庭で本当の父親になりすます話。これは昔何かの本で紹介されていて、ちょっとだけ知っていた話だったのですが、もっと感動的な話なのかと思っていたら妖怪オロロンはあの親子をぬか喜びさせてかき回しただけのお騒がせ妖怪父ちゃんだっただけで、そこまで同情はできないなという感じでした。父親役に満足したら、最後は諦めてわりとあっさりに地獄界に帰っていったし・・。
「本当の家族として暮らし続けることはできなかったけど、お母さんは元気になって仕事ができるようになり、子供もこれを乗り越えてますます元気に過ごすようになりました」という救いがあるラストでしたが、この家庭の最大の問題点(父親が蒸発したまま帰ってこない)は全く解決しないままだったのがなんとも・・。


ラー感もあって感動エピソードでもあった、あすなろ小僧の回が個人的には一番好きです。全話は見れないけど、重要エピソードだけ見てみたいという方はこの3話に加え、1話と閻魔大王と対決する15話、あと最終回を見れば大体OKかと。
気に入ったエピソードはあったものの、これと言って「超名作!」という回はなく、後味の悪い話もなし。全体的なストーリーとしてはちょっと地味なのかも、と思いました。でも永井豪先生の作品らしくサッパリちゃきちゃきした主人公とヒロイン、子供向けのエロ・グロ・バイオレンスもあり、良かったと思います。

2024年4月15日 記